2013年11月7日木曜日

Androidアプリ『Whipper』におけるLUK値の効果(その2:探索イベント判定への影響について)

要 旨

【背景】Androidアプリ『Whipper』のLUK値が何に影響するかはほとんど明らかになっていない。そこで、LUK値が探索イベント(戦闘に遭遇、宝箱を発見、泉を発見、など)の判定に対して影響を与えているか統計学的に分析した。【方法】LUK値が1の場合と12の場合で、同じダンジョンに繰り返し入り、(1)探索イベントが発生しなかった回数、(2)戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とさなかった回数、(3)戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とした回数、(4)宝箱を発見した回数、および(5)泉を発見した回数、の5つを集計した。【結果】探索イベントの発生率について、LUK値が1の場合と12の場合の間に有意差は認められなかった。【考察】冒険者のLUK値は、戦闘後に魔物がアイテムを落とす確率、および冒険者が宝箱や泉を発見する確率に実質的な影響を与えないと考えられる。

キーワード: Whipper, LUK, LUCK, アイテムドロップ率, 泉発見率, 宝箱発見率


1. 背景
 2011年に登場したAndroidアプリ『Whipper』は、数万人レベルのユーザーを獲得した人気ゲームである。しかし、登場から2年以上が経過した現在でも、「運」、「幸運」、または「LUCK」と呼ばれる値(以下、LUK値)の効果についての情報がほとんどなく、そもそもLUK値が何かに影響しているのかどうかすら明確になっていない。ただし、筆者が行った調査により、「戦闘時のクリティカル判定」に対してはLUK値が実質的な影響を与えないことが判明している(Nest, 2013)。

 LUK値の効果については、何人かのユーザーの予想や勘を取り込みながら、以下の3つが最も有力視されている; LUK値が上昇すると、(1) 入手した武具が「色付き装備品(能力が1つ以上付いたもの)」である確率が上昇する、(2) 探索階が「魔物の巣」である確率が下降し、逆に「オアシス」または「宝物庫」である確率が上昇する、あるいは、(3) 魔物のアイテムドロップ率が上昇する。

 しかし、LUK値が上昇すると「魔物のアイテムドロップ率が上昇する」という説に対しては、「(拾得する)総アイテム数はあまり変わらない」という意見もあるため、矛盾を生じている。さらに、「泉や宝箱遭遇判定」にLUK値が影響しているという説もあり、LUK値とアイテム拾得率との関連については結論が出ていない(攻略Wiki)。

 そこで、本調査では、Androidアプリ『Whipper』のLUK値が何に影響しているかを統計学的手法を用いて明らかにするために、「魔物のアイテムドロップ判定」や「泉や宝箱遭遇判定」と呼ばれる判定(以下、探索イベント判定)に対するLUK値の影響を統計学的手法を用いて分析することを目的とした。

 本調査に当たり、以下の仮説を立てた。
  • 仮説: 冒険者のLUK値が高くなると、戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とす確率、および冒険者が宝箱や泉を発見する確率が上昇する。


2.方法

 調査の前提として「探索イベントは毎分判定が繰り返され、1分ごとに内容が決定する」というモデルを想定した。つまり、例えば7時間36分(=456分)の探索では、探索イベントの判定が456回行われることになり、8時間(=480分)の探索では、探索イベント判定が計480回行われることになる。具体的な探索イベントは、「戦闘に遭遇」、「宝箱を発見」および「泉を発見」の3つである。しかし、戦闘後には必ずアイテムドロップの有無(倒した魔物がアイテムを落とすかどうか)が判定されるため、実質的には「戦闘に遭遇」のイベントは「戦闘;アイテムドロップあり」と「戦闘;アイテムドロップなし」の2つに分けることができる。

 LUK値の探索イベント判定への影響を調べるために、冒険者のLUK値が1(以下、LUK-01)と12(以下、LUK-12)になるように装備品を調整し(表1参照)、2条件間で探索イベント数を比較した。なお、調査に使用した『Whipper』のバージョンはv2.62(2012年4月)であった。


表1. LUK値別の装備品と能力
装備品 能力
LUK-01† LUK-12†
武器 グラディウス (なし) 幸運 Lv3
レインボウ+380 (なし) 幸運 Lv3,幸運 Lv2
指輪 グレーズド (なし) 幸運 Lv3,耐久 Lv4
† LUK-01: LUK = 1; LUK-12: LUK =12


 まず、事前にサンプルサイズを決定するために、検定力を0.8とし、パワーアナリシスを実施した。その際、わずかな影響(差)を見逃さないように、効果量を0.05に設定した。なお、本研究におけるすべてのパワーアナリシスには、G*Power 3.1.4 を使用した。

 次に、探索イベント数の合計が目標のサンプルサイズに達するまで、LUK-01とLUK-12が1回ずつ交互になるように探索を繰り返し、LUK-01とLUK-12のそれぞれについて以下 の5つのデータを収集した; (1)探索イベントが発生しなかった回数、(2)戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とさなかった回数、(3)戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とした回数、(4)宝箱を発見した回数、および(5)泉を発見した回数。

 探索の目的地はパスワード「スターゲイザーゲット」で生成したダンジョン「裁きの霊廟」とし、目標階は必ず24階で設定した。

 ただし、以下の探索データは分析対象から除いた; (1)泉の効果でLUK値が上昇した場合、その泉を発見した時点より後の探索データ、および(2)特殊階(「オアシス」,「宝物庫」,「魔物の巣」)における探索データ(例えば、「オアシス」では泉発見回数が急増するように、特殊階探索イベント判定の確率が明らかに通常時と異なるため)。

 検定手法として、ピアソンの独立性の検定を採用し、有意水準を5%とした。また、検定ソフトとして、R version 2.15.1を使用した。


3.結果
 事前のパワーアナリシスより、目標のサンプルサイズは4,775回であった。なお、調査期間は2013年9月22日~11月6日の46日間であった。

 探索イベントの分布を表2に示す。検定の結果、LUK-01とLUK-12の間に有意差は認められなかった(P = 0.70, n = 6,141, χ2 = 2.21)。なお、事後のパワーアナリシスの結果、効果量が0.02、検定力が0.19であった。


表2. LUK値別の探索イベントの分布
探索イベント LUK-01† LUK-12†
回数(回) 割合(%) 回数(回) 割合(%)
発生せず 1,467 40.1 994 40.1
戦闘ドロップなし‡ 1,893 51.7 1,304 52.6
戦闘ドロップあり‡ 109 3.0 60 2.4
宝箱発見 80 2.2 49 2.0
泉発見 111 3.0 74 3.0
合 計 3,660 100.0 2,481 100.0
† LUK-01: LUK = 1; LUK-12: LUK =12
‡ ドロップ: 戦闘後に倒した魔物がアイテムを落とすこと


4.考察
 本調査は、筆者の知る限り、Androidアプリ『Whipper』における探索イベント判定へのLUK値の影響を統計学的手法を用いて分析した初めてのものである。

 検定の結果、LUK値と探索イベントに関連があるとはいえなかった。また、効果量が0.02であり、Cohen (1988)の示した目安の 0.1(small)を大きく下回っていた。したがって、もし冒険者のLUK値が探索イベントの判定に影響するとしても、実質的な効果(差)は生じないと考えられる。以上より、仮説は棄却された。

 本調査の結果は、ver 2.2で実施した先行調査の「(総アイテム数は)あまり変わらない」という結果(攻略Wiki)を支持する。言い換えれば、ver 2.2以前に行われた先行調査の「アイテムドロップ率に差がある」という結果と矛盾する。

 Ver 2.2以前の先行調査と逆の結果が得られた理由として、以下の2つが考えられる。ひとつは、使用した『Whipper』のバージョンの違いであり、バージョンアップのどこかの段階で冒険者のLUK値が戦闘におけるアイテムドロップ判定に影響を与えないよう修正された可能性である。もうひとつは、「宝物庫」、「オアシス」、あるいは「魔物の巣」といった特殊階でのデータがVer 2.2以前の先行調査には含まれていることである。その結果、実際には分析した戦闘の総数自体に差があったにも拘わらず、(ドロップ率ではなく)見かけ上のドロップ数の差に引っ張られて誤った結論を導いたことが推測される。


5.限界
 本研究の限界は、LUK値が1の場合と12の場合を比較しただけなので、よりLUK値が上昇した時の影響の有無や効果(差)の大小について知ることができないことである。


6.結論
  • 冒険者のLUK値は、戦闘後に魔物がアイテムを落とす確率、および冒険者が宝箱や泉を発見する確率に実質的な影響を与えない。

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